夢のつづき

甲本ヒロトは、夢について

 

「夢は目的だと思うんです。バンドで成功してお金持ちになりたいとか、それだと2つになっちゃう。どっちかなんです。バンドがしたいのか、お金持ちになりたいのか。1個の目的だと思うんです。お金持ちになりたいのだとしたら、バンドは手段でしかない。不動産を勉強してお金持ちになってもいい。僕は、バンドがしたいと思ったんです。だから、ずっと夢は叶ってるんです。」

 

と話していた。

つまり、甲本ヒロトにとって、バンドをやっている限り夢はもう叶っている。叶いっぱなしな状態。

 

僕の夢はどうだろう。

思い返してみよう。

 

15才、高校1年の夏にサッカー選手になる夢を諦めて暇になり、もともと興味のあったギターをはじめてみた。うたぼんを買ってきて、知っている曲の中から、簡単そうなコードの曲を探してコピーしてみた。一番最初にコピーしたのは、藤井フミヤのTRUE LOVE。使うコードは、CGAmF4つだった。

 

当然、最初は上手く弾けない。CからGへのコードチェンジにどれだけ時間を費やしただろう。音もちゃんと出ていない気がするけど、とにかく練習し続けた。3日ほど経って、CからG、そして、Amまではなんとか抑えられるようになった。歌詞で言うと、♪振り返るといつも君が笑ってくれた♪まで。次に、ギター人生で最初の挫折、Fを味わうことになる。なんだこれは。絶対無理じゃん。っていうか、こんな手の形、大丈夫なのか?なんか、おかしくないか?どこをどうすれば音が出るんだ??

 

多くのギター初心者を闇に葬り去ったであろうFに、実に2週間ほどかかった。

 

しかし、人間とは不思議なもので、大抵のことは慣れてくるらしい。Fコードを押さえている変な手の形の自分を疑う事もなくなっていたし、テレビで見るギタリストは確かにあの変な形で弦を押さえている場面を確認できたからだ。テレビにかじりつきながら、あ!今F押さえた!と、先人達の勇姿に勇気をもらい、練習し続ける事ができた。なんたって、このFが抑えられれば、TRUE LOVEが弾ける。ゴールが間近だったのも大きかった。

 

1ヶ月後、遂に僕はFを攻略し、TRUE LOVEで使用する4つのコードを抑えられるようになった。しかし、そこからまた、スムーズにコードチェンジして弾けるようになるまでの戦いが待っていた。CDを流しながら合わせて弾いてみるものの、コードチェンジが間に合わずに置いていかれる日々。十分、ゆったりした歌なのだが、「フミヤ、頼むからもっとゆっくり歌ってくれ、、」とコンポに向かって懇願した。

 

2ヶ月後、ほとんどCDに遅れることもなく、TRUE LOVEを弾きこなす僕がそこにいた。何百、何千回とリピートしたからか、あれだけ痛かった指先もすっかり固くなり、何時間でもギターが弾けるようになっていた。なんとなく弾けるようになったし、おんなじようなコードの曲はないかと、次に挑んだのは、スピッツの空も飛べるはず。これが、驚くほど早く弾けた。というか、CDを流してコードに合わせて弾いてみた瞬間に、まず音が合っていた(コードが同じだから当たり前である)のにビックリした。え?全然違う曲なのに、コードが合ってればもしかして何でも弾けちゃうの?それを知った瞬間、片っ端からうたぼんに載っている同じようなコードを使った曲を弾いてみた。え?何これ、、俺もう、、無敵じゃん!!新しい世界が開けた瞬間だった。コードさえ覚えれば、どんな曲だって弾ける。カラオケに行かないと歌えなかったあの曲も、ギターさえあればいつでも弾いて歌える。弾いて歌える?弾いて歌ってみよう!

 

それから、弾き語りが楽しくて仕方なかった。スピッツ、ユーミン、B’z、サザンオールスターズ、、コードを覚えるたびに弾ける曲や歌える曲が増えていった。テレビでヒットソングが出ると、これも弾けるかな?ほーら、弾けた。と、まるでその曲を操っているかのような妙な支配感すらあった。勿論、弾けない曲もたくさんあった。ミスチルやaikoなんかは、コードが難しく、意味の分からないコード表記が目に入っては、「今日のところは勘弁してやるよ」と諦め続けた。

 

そんな中、ハイスタンダードに出会う。エレキギターだ。パワーコードというやつで弾くらしい。え?抑える弦2本だけ?え?簡単じゃない?しかも、なんかカッコいいし、めちゃくちゃ楽しい!なんだギターって!最高の楽器じゃん!J-popの弾き語りとハイスタ、アコギとエレキギターを行ったり来たりする毎日。同じギターなのに、全く違う音、全く違う世界、全く違う快感。塩味と甘味のお菓子を、交互に永遠に食べれてしまう感じだったのかもしれない。

 

そんな折、弾き語りにおいてまたまた大きな出会いがある。ゆずだ。それまでのゆずの印象は、なんか地味だし、地味な女子が聴く音楽、くらいに思っていた。夏色は知っていたけど、それほど興味は持てなかった。そんな中、ゆずが好きで、ギターも弾けるクラスメイトに誘われて、学校終わりの公園でゆずの弾き語りをしてくれた。なんだこれ。めちゃくちゃいい曲。すぐにTSUTAYACDを借りて曲を覚えて、コピーを始めた。ハイスタから始まったエレキギターは、ブラフマン・モンパチ・B-DASH・スネイルランプ、弾き語りはゆずを中心に、引き続きJ-popの名曲達へどんどん派生していった。

 

音楽。

一生遊べる最高の宝物を手に入れたと思った。

 

高校在学中、同じ学校内に友達はほとんどいなかったけど、弾き語りをしているらしいという噂が回ったらしく、他校のバンドに誘われるようになったりして、そこで歌わせてもらったり、音楽のおかげでそれなりに楽しい高校生活が送れた。そうしているうちに、いつしか曲を書いてみたいと思うようになった。コピーをしている人はいたけど、自分で曲を作っているやつは稀だった。

 

2の夏の失恋を機に、初めて作ったオリジナル曲を作ってみた。悶々とした気持ちを吐き出したかったのだろう。タイトル、やまない雨。当然、恥ずかしくて、しばらく誰かに聞かせるなんて事もなかった。

 

ある日、クラス会に誘われた。酒は飲めなかったし、友達もほとんどいなかったので断っていたんだけど、ギターが弾けるようになってからは少し自信もついたせいか、参加してみる事にした。幸い、ギターを弾けるやつが何人かいて、ギターも持ってきてよ、と言われたのが嬉しかったのもあった。

 

クラス会当日、ギターを回し弾きしたりして、いい感じに盛り上がった。なんだ、なかなかいい奴らじゃないか、と思った。その時に、同じように失恋したっていうやつの話を聞く機会があった。酒も入っていたせいか、普段ほとんど話した事もないやつなのに、半泣きで僕に話してくれた。「実は俺もこのあいだ告白してみたんだけどダメだった。でも、それがきっかけで初めて曲作ってみたんだ」と話した。「おー!凄いじゃん!歌ってみてよ」という流れになり、初めてそいつに自分のオリジナル曲を歌ってみた。歌い終えると、「なんか、俺の気持ちを歌ってくれてるみたいだった」と言ってくれた。それが、死ぬほど嬉しかった。僕も、僕が好きな歌は、まるで自分の気持ちを歌ってくれているような気がする曲が多かったからだ。このオリジナル曲が、そんな曲になってくれたような気がした。

 

それから、オリジナル曲を作る事に夢中になっていった。好きな曲を書いて、好きに歌う。自分も楽しいし、それで誰かが元気になってくれたら儲けもんだと思った。サッカー以外に、夢中になれるものが見つかった。嬉しかった。

 

そう思い返すと、僕の夢はつまり、音楽をする事だ。音楽で売れたいんじゃない、音楽でモテたいんじゃない。音楽をする事こそが夢なんだ。それが一番、僕を夢中にさせるものなんだ。ずっと叶っていたんだ。甲本ヒロトと同じように。

 

夢は、下北沢440でワンマンライブをする事

 

表向きにはそう言い続けるだろう。その方が分かりやすいし、見ている人にも応援してもらいやすいし、目標として分かりやすい。つまりは、社交辞令のようなものだ。夢を追いかけているんじゃない、夢を与えてあげているんだ。僕の夢なんて、もう叶っているんだから。そんな僕の歌を聴いて、もし勇気づけられたり元気をもらったり、応援したいと思ってくれる人がいるなら、その人達に夢を与えてあげられるのが僕なのだとしたら、夢は下北沢440ライブ。武道館って言った方が夢を与えられるんじゃないの?って思うかもしれない。確かにそうかもしれない。だけど、それ以上に、まず僕が唯一、夢を見れるステージは下北沢440なんだ。

 

2010年、メジャーデビューを果たし、ようやくスタートだと思っていた最中、グループが解散した。初めて音楽を諦めて、沖縄へ帰ろうか迷っていた時、下北沢440で観た野辺剛正さんの40才記念ライブ。こんな40才に、自分もなれるのかな?って思った。素晴らしいミュージシャンとお客様に囲まれて、素晴らしい音楽が鳴っていたあの日。みんな笑っている中で、僕は泣いた。東京ドームでみたイーグルスより、日産スタジアムでみたミスチルより、武道館でみた小田和正さんより泣けた。それは、野辺さんという人のストーリーがあった上で、それを見続けてきた人達が集まって、点が線になって未来が広がっていく瞬間を目の当たりにしたからだ。人を感動させるのは、きっと肩書きやスケールではない、ストーリーと諦めない心だと思った。

 

 

僕が歩むべき未来が見えた。僕の歌を信じて、僕のストーリーを見続けた人が下北沢440に集まって、最高のサポートメンバーと、最高のお客さんで、最高の景色を見せてあげられる未来。武道館とか、大きいショーケースの必要はない。必要なのは、ストーリーと諦めない心だ。

 

何を諦めないか。

その景色を信じて、音楽を続ける事。

いつも心に、音楽を持ち続ける事。

 

恐れることはない。引き続き楽しめば良いだけだ。夢中になっていればいいだけだ。売れっ子になる必要もなければ、みんなに良い顔をする必要もない。僕の大好きな音楽を、大好きだと言ってくれる、大好きな人に届け続ければいい。その大好きが、下北沢440を埋められるくらい集まった時、その景色を作ってあげればいい。僕の夢の続きに、下北沢440があるだけ。そして、それが終わっても、夢はきっと続く。

 

僕が音楽に夢を見たように、音楽が僕に夢を見せてくれたように、僕が誰かに夢を与えたい。

 

 

 

 

いつも心に、音楽を。

 

 

 

 

 

恵太

2022年11月16日 | Posted in ブログ, 想い・雑談 | | No Comments » 

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